音楽・バレエ教室
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ニュース
2020/10/30
お知らせ

昭和音楽大学オペラ公演2020《ドン・ジョヴァンニ》公演レビューを掲載しました!

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【公演レビュー】昭和音楽大学オペラ公演2020《ドン・ジョヴァンニ》

取材・文 林田 直樹(10月11日公演)
写真 三浦 興一
まずは、上演そのものが無事におこなわれたことを喜びたい。日本のオペラ界の歴史において、数々の日本初演にも取り組んだ昭和音大のオペラ公演が継続されることには特別の意味がある。
フェイスシールドを装着しての歌唱と演技には、不自由さも相当あったはずだが、声の響きは、ややくぐもった印象ながら、きちんと客席に届いてきた。舞台奥のオーケストラとのバランスも良く取れていた。

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20年近く、毎年のように昭和音大のオペラを聴き続けているが、歌手のみならずオーケストラの技術レベルが向上し続けていることも特筆される。
マルコ・ガンディーニの演出は、世界最高レベルのクオリティを毎回見せてくれる。ヨーロッパの古い街並みを静かに映し出していく背景の映像は、常にゆっくりとした動きがあり、詩的な雰囲気を醸し出していた。誰もいない街であったところは、不思議に今のコロナ禍の状況と重なり合って見えた。

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今回はイタリアからのリモートワークによる演出、しかも距離をとって歌手たちも演じなければならず、苦心の跡がうかがえた。演技はどうしても静的なものにならざるを得なかったが、かえって説得力が増した面もあった。
たとえば、ドンナ・アンナ(今牧香乃)とドン・オッターヴィオ(西山広大)、マゼット(小野隆伸)とヅェルリーナ(米田七海)、という二組のカップルが、どちらもディスタンスがありながらも、お互いの愛情のすれ違いを感じさせる演技になっていた。立ち去り際に挑むようにマゼットがドン・ジョヴァンニ(岩美陽大)を見据えたり、フィナーレで一同が喜ぶなかドンナ・エルヴィーラ(朱禹妃)だけがあらぬ方を向いていたり、ちょっとした視線や身体の向きにも大きな意味があった。最後の騎士長(小田桐貴樹)訪問の場面で、ドン・ジョヴァンニはレポレッロ(平賀僚太)との会話に夢中で騎士長の姿には最初全く気が付かないが、騎士長が声を発して初めて驚く。このあたりも面白い。つまり視覚的な動き中心の演出ではなく、音楽中心の演出であった。
ドン・ジョヴァンニがヅェルリーナを誘惑する二重唱で、ヅェルリーナの承諾に何のためらいもないように思われたのは、おそらく確信犯だろう。指揮の松下京介がリードする音楽全体が、あたかも“生き急ぐ”ドラマのような焦燥感すら感じさせた。決して過去の心地よさのなかに安住させることのない、現代風のモーツァルト解釈でもあった。
毎回、イタリア人チームとの意思疎通を図るという意味で、演出補・演技指導・字幕を担当する堀岡佐知子の功績は大きい。字幕に関して、かなり思い切った言葉の選び方をしているところは問題提起的である。字幕の影響は想像以上に大きく、字幕によって多くのことを教えられる反面、舞台上で起きていることのすべてを塗り替えるほどの力がある。日本語で消化するというプロセスは、演奏者にとっても聴衆にとっても、共有しなければならない、永遠の課題でもある。

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筆者紹介

林田 直樹 Naoki Hayashida

埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバーまで、近年では美術や文学なども含む、幅広い分野で取材・著述活動を行なう。

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