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ニュース
2021/01/08
お知らせ

【公演レビュー】12/20(日)ミュージカルコース・舞台スタッフコース2020年度卒業公演「INTO THE WOODS」

12/20(日)ミュージカルコース・舞台スタッフコース2020年度卒業公演「INTO THE WOODS」をテアトロ・ジーリオ・ショウワにて開催しました。リハーサル・本番と、どの段階においても万全の感染防止対策を講じ、無事に終えることができました。

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演出     横山 由和
音楽監督   田邉 賀一
歌唱指導   萩原 かおり
振付     福島 桂子
タップ振付  祝利 美杏
音楽監督補佐 藤代 敏裕

出演

音楽芸術運営学科ミュージカルコース 4年生

舞台スタッフ

音楽芸術運営学科舞台スタッフコース 4,3,2年生

【公演レビュー】

取材・文 林田 直樹
現代のブロードウェイのレジェンドとして尊敬を集める作曲家・作詞家スティーヴン・ソンドハイム(1930-)のミュージカルは、オペラに勝るとも劣らないくらい精巧に作られた音楽劇ばかりである。その特徴が最も生かされた傑作「イントゥ・ザ・ウッズ」を昭和音大のミュージカルコースはこれまでしばしば取り上げてきた。すぐれた作品ほど人を育てるものはないが、その意味でこの演目選定は最適である(演出:横山由和)。
それにしても、今回の舞台を観て、これほど心を強く動かされるとは思わなかった。それは、個々人の技量が云々というよりも、キャスト・スタッフ全体が結束したチームワークによるものが大きい。それぞれの俳優たちはセリフも歌もしっかり自分のものとして把握していたし、全員が女性であるということをすっかり忘れてしまうくらい、一人残らず、役柄に没入した生き生きとした演技になっていた。
やはり作品そのものの深さが、学生たちをそこまで成長させたのだろう。コロナ禍によって今年はパフォーミングアートすべてに大きな制約がかかっていたが、その逆境は、元来「イントゥ・ザ・ウッズ」の中で語られているテーマとも関連し合うものでもあった。
この作品は、「シンデレラ」「ジャックと豆の木」「赤ずきん」「ラプンツェル」といったおとぎ話の主人公たちが、それぞれの物語を生きる中で、森の中を迷いながら思わぬ出会いを遂げ、予想外の出来事に巻き込まれていく――というものである。それは従来型のおとぎ話やハッピーエンドへの挑戦であり、現実の人生や世界とはどういうものか、ということについて考えさせてくれる、含蓄に富んだ言葉と音楽の世界なのである。物語の中で持ち上がる「目的が正しければ手段はどんなに悪くとも正当化されるのか?」「憎しみと分断と暴力をいかにして止めるのか?」という問いは、そのまま現代の状況を照らし出すものだ。そこには客観的な語り部など存在しえず、誰もが当事者でしかありえない、ということまで、この作品では辛辣に示されている。
「イントゥ・ザ・ウッズ」は、音楽的には、解決音の先延ばし、つまり疑問符の連続によって特徴づけられる。同時多発的にあちこちから主人公たちの思いをのせた、きらめくような言葉がめまぐるしく繰り出される。そんな複雑な美しさをもったスピード感あるこの作品を、感染症対策の制約をものともせず、学生たちは生き生きと体現していた。その全体の流れはプロの上演にも勝るとも劣らない魅力があった。
最後に一つだけ指摘しておきたい。ソンドハイムのミュージカルの真の魅力として忘れてはならないのは、英語の歌詞(台本:ジェームズ・ラパイン)と音楽とが見事に一体化して、深い意味と美しさを生み出していく点にある。モーツァルトのオペラがダ・ポンテのイタリア語と不可分の関係にあるのと同じである。それをどうやって日本語化していくかは、海外のミュージカルを日本で上演するにあたっては最も重要かつ困難な課題である。そのプロセスを舞台の内外で共有できるようにしていくことは、ミュージカルをオペラと等しい芸術的価値を持つ音楽劇として捉える上でも、今後はもっと大切になってくるだろう。
「イントゥ・ザ・ウッズ」はディズニー映画にもなっている。現代アメリカ文化の最高峰ともいえるソンドハイムの世界をより深く味わうためにも、原詩の英語が音楽と響き合ったときの美しさに触れる機会を持ちたいものである。
(2020年12月20日17時半開演・所見)

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筆者紹介

林田 直樹 Naoki Hayashida

埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバーまで、近年では美術や文学なども含む、幅広い分野で取材・著述活動を行なう。

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