2021/07/20
お知らせ
【公演レビュー】室内合奏団第11回定期演奏会
6/26(土)昭和音楽大学室内合奏団第11回定期演奏会をテアトロ・ジーリオ・ショウワにて開催しました。リハーサル・本番と、どの段階においても万全の感染防止対策を講じ、無事に終えることができました。
プログラム
《オール・モーツァルト・プログラム》
W. A. Mozart
Divertimento K.334
W. A. Mozart
ディヴェルティメント ニ長調 K.136
Divertimento K.136
Divertimento K.136
セレナーデ第6番 ニ長調『セレナータ・ノットゥルナ』K.239
Serenata notturna K.239
ディヴェルティメント ニ長調 第17番 K.334Serenata notturna K.239
Divertimento K.334
【公演レビュー】
取材・文 林田 直樹
大編成ばかりがオーケストラではない。中小規模の「室内オーケストラ」によってアンサンブルを磨くことは、演奏家にとって大切な経験であり、聴き手にとってもそれは同様である。特に「指揮者なし」で演奏することは、一人一人の音楽的責任の重さ、求められる自発性、お互いの音を聴き合う意識を醸成するという意味で、またとない有意義な経験となる。
篠崎史紀客員教授(NHK交響楽団第1コンサートマスター)をスーパーバイザーに、小森谷巧教授(読売日本交響楽団コンサートマスター)らを指導陣に迎えた昭和音楽大学室内合奏団のオール・モーツァルト・プログラムに接し、学生たちの成長の機会を的確に作り出している、こうした方針に強い賛同の気持ちを持った。
1曲目の「ディヴェルティメント ニ長調K.136」は、やや緊張気味の雰囲気と感じたが、次の「セレナーデ第6番ニ長調K.239《セレナータ・ノットゥルナ》」でのとことん遊び尽くした演奏で謎が解けた。最初はあえて堅苦しくやってみせたのかもしれない。それくらい、《セレナータ・ノットゥルナ》では彼らは自分の個性を存分に発揮していた。
この曲はもともとソロ奏者たちによる室内楽的な要素と、全体のトゥッティが作り出すオーケストラ的な要素の両面がある。その二重構造を生かしながら、長々とリレーされていったカデンツァでは、ヴァイオリン、ヴィオラ、コントラバス、ティンパニ、チェロの各奏者たちが、古典派のみならずロマン派からジャズの要素まで自在に盛り込んだソロを披露した。特に、コンサートマスターの去川聖奈の演奏の卓越した技量と風格は印象に残った。
ここで実感されたのは、普段はアンサンブルの中に隠れている個々の奏者の人間性や音楽観の反映を楽しむのがカデンツァだという真実である。様式感やバランスも大切だが、こういう放埓すぎるくらいの自由なやり方があってもいい。
後半メインの「ディヴェルティメント第17番ニ長調K.334」は、このジャンルにおける最高傑作のひとつで、6つの楽章に込められたモーツァルトの音楽の表情の多様性は、オペラ的でさえある。合奏団のメンバーには大学オペラ公演の経験者も多く含まれていると思われるが、近年モーツァルトの演目が続いていることも、この演奏には経験の強みとして生きていたに違いない。
たとえば第4楽章アダージョの旋律の歌い方、優雅さと憂いの対比が織りなすドラマはオペラ・アリアそのものだが、その雰囲気を彼らの演奏は持っていた。第5、6楽章の生き生きとした求心力は、彼らがこの日のコンサートで演奏しながら成長していたことを実感させた。
コロナ禍でさまざまな制約があるなか、こうした成果が上がっていることは、聴き手としても大きな喜びだった。
篠崎史紀客員教授(NHK交響楽団第1コンサートマスター)をスーパーバイザーに、小森谷巧教授(読売日本交響楽団コンサートマスター)らを指導陣に迎えた昭和音楽大学室内合奏団のオール・モーツァルト・プログラムに接し、学生たちの成長の機会を的確に作り出している、こうした方針に強い賛同の気持ちを持った。
1曲目の「ディヴェルティメント ニ長調K.136」は、やや緊張気味の雰囲気と感じたが、次の「セレナーデ第6番ニ長調K.239《セレナータ・ノットゥルナ》」でのとことん遊び尽くした演奏で謎が解けた。最初はあえて堅苦しくやってみせたのかもしれない。それくらい、《セレナータ・ノットゥルナ》では彼らは自分の個性を存分に発揮していた。
この曲はもともとソロ奏者たちによる室内楽的な要素と、全体のトゥッティが作り出すオーケストラ的な要素の両面がある。その二重構造を生かしながら、長々とリレーされていったカデンツァでは、ヴァイオリン、ヴィオラ、コントラバス、ティンパニ、チェロの各奏者たちが、古典派のみならずロマン派からジャズの要素まで自在に盛り込んだソロを披露した。特に、コンサートマスターの去川聖奈の演奏の卓越した技量と風格は印象に残った。
ここで実感されたのは、普段はアンサンブルの中に隠れている個々の奏者の人間性や音楽観の反映を楽しむのがカデンツァだという真実である。様式感やバランスも大切だが、こういう放埓すぎるくらいの自由なやり方があってもいい。
後半メインの「ディヴェルティメント第17番ニ長調K.334」は、このジャンルにおける最高傑作のひとつで、6つの楽章に込められたモーツァルトの音楽の表情の多様性は、オペラ的でさえある。合奏団のメンバーには大学オペラ公演の経験者も多く含まれていると思われるが、近年モーツァルトの演目が続いていることも、この演奏には経験の強みとして生きていたに違いない。
たとえば第4楽章アダージョの旋律の歌い方、優雅さと憂いの対比が織りなすドラマはオペラ・アリアそのものだが、その雰囲気を彼らの演奏は持っていた。第5、6楽章の生き生きとした求心力は、彼らがこの日のコンサートで演奏しながら成長していたことを実感させた。
コロナ禍でさまざまな制約があるなか、こうした成果が上がっていることは、聴き手としても大きな喜びだった。
筆者紹介
林田 直樹 Naoki Hayashida
埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバーまで、近年では美術や文学なども含む、幅広い分野で取材・著述活動を行なう。
埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバーまで、近年では美術や文学なども含む、幅広い分野で取材・著述活動を行なう。