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ニュース
2022/11/25
お知らせ

【公演レビュー】大学オペラ公演2022『フィガロの結婚』

10/8(土)、9(日)大学オペラ公演2022『フィガロの結婚』が昭和音楽大学テアトロ・ジーリオ・ショウワにて開催されました。

フィガロの結婚2022_1

内容

モーツァルト オペラ《フィガロの結婚》 Le nozze di Figaro
全4幕 原語(イタリア語)上演/日本語字幕付 Opera buffa in 4 Acts (Sung in Italian)
作曲 W.A.モーツァルト Music: Wolfgang Amadeus Mozart

スタッフ

指 揮:二コラ・パスコフスキ Nicola Paszkowski, Conductor
演 出:マルコ・ガンディーニ Marco GANDINI, Stage Director
管弦楽:昭和音楽大学管弦楽団 Showa Academia Musicae Orchestra
合 唱:昭和音楽大学合唱団  Showa Academia Musicae Chorus
美  術:イタロ・グラッシ Italo GRASSI, Scenary
衣  裳:アンナ・ビアジョッティ Anna BIAGIOTTI, Costume Cordinater
照  明:奥畑 康夫・西田 俊郎 OKUHATA Yasuo and NISHIDA Toshiro, Lighting Designer
演 出 補:堀岡 佐知子 HORIOKA Sachiko, Associate Director
舞台監督:斉藤 美穂 SAITO Miho, Stage Manager

キャスト

10月8日(土)

アルマヴィーヴァ伯爵  岩美 陽大  IWAMI Youdai
伯爵夫人        福留 なぎさ FUKUDOME Nagisa 
スザンナ        米田 七海  YONEDA Nanami
フィガロ        小野寺 光  ONODERA Hikaru
ケルビーノ       大隈 有花里 OOKUMA Yukari
マルチェリーナ     荒川 茉捺  ARAKAWA Mana
バルトロ        宮村 春樹  MIYAMURA Haruki
バジリオ        西山 広大  NISHIYAMA Kodai
ドン・クルツィオ    原 優一   HARA Yuichi
バルバリーナ      鎌田 麗   KAMATA Rei
アントニオ       ウムット・トゥルソン UMUT Tursun
花娘          上野 由貴/長島 晴佳 UENO Yuki,  NAGASHIMA Haruka 

10月9日(日)

アルマヴィーヴァ伯爵  市川 宥一郎 ICHIKAWA Yuichiro
伯爵夫人        木村 有希  KIMURA Yuki 
スザンナ        山口 はる絵 YAMAGUCHI Harue
フィガロ        小野田 佳祐 ONODA Keisuke
ケルビーノ       山下 美和  YAMASHITA Miwa
マルチェリーナ     宇津木 明香音 UTSUGI Akane
バルトロ        徐 大愚   XU Dayu
バジリオ        原 優一   HARA Yuichi
ドン・クルツィオ    西山 広大  NISHIYAMA Kodai
バルバリーナ      塚本 雛   TSUKAMOTO Hina
アントニオ       安塚 久理人 YASUZUKA Kurito
花娘          上野 由貴/長島 晴佳 UENO Yuki,  NAGASHIMA Haruka

【公演レビュー】

取材・文 林田 直樹
3年ぶりの本格的な舞台上演。毎年のように観てきた側にとっても、久しぶりにジーリオでオペラを観られるのは感慨深いものがあったし、上演のクオリティも高く、長く記憶に残るであろう素晴らしい舞台だった。
指揮のニコラ・パスコフスキは実演では3回目の登場。冒頭から非常に速いテンポでメリハリのある音楽をめざしていたが、昭和音楽大学管弦楽団はこれに高い技量で応え、特に弦の表情の豊かさ、細やかさには驚かされた。これがまずオペラの基盤をしっかりと作っていた。




フィガロの結婚2022_2

演出のマルコ・ガンディーニは2007年以降毎年のように本学のオペラ公演に携わっているが、今回3回目となる「フィガロの結婚」においても、これまでの積み重ねを生かしつつも、再演という範疇には収まらない、新鮮で生き生きとした舞台を作り上げた。
演出でいくつか気づいたことを――。
まず序曲が演奏されている間、舞台では若い男女(フィガロとスザンナ)の抱擁がある。これで一般の観客には何が物語の軸となっているのかが一瞬で明確に示される。
第1幕では“伯爵が来たのに驚き、慌てて椅子に隠れるケルビーノ”という通例の白々しいお芝居がなく、途中から舞台奥に消えていたケルビーノが突然姿を現したように思えたのは面白い趣向だった。その少し後、伯爵の命令によって屋敷を追い出され軍隊に出ることになったケルビーノをからかうフィガロの「もう飛べまいぞこの蝶々」のシーンで、通常の演出では落胆するはずのケルビーノがいかにも嬉々としていたのはなぜだろう? ここは、あたかも喜び勇んで戦争に向かう若者の思慮のなさを表していたようにも思えて興味深かった。

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第2幕フィナーレで、次々と重唱の数が増えていく中に物語の展開が織り込まれていく演技の細やかさが素晴らしかった。たとえばフィガロに伯爵夫人とスザンナが耳打ちして書類にハンコがないということを伝えるあたりの動きなど、とてもわかりやすく明確なものだった。このフィナーレの終わりで、再度フィガロとスザンナの愛が揺るぎないことを一瞬で示して見せる演出もいい。
第3幕以降もすべてが芝居として自然で、状況を観客が把握しやすく、ドタバタ何をやっているのかわからないようなシーンはひとつもなかった。第4幕では通常プロの上演ではカットされることの多いマルチェリーナやバジリオのアリアが、先を急がずしっかりとしたクオリティで演奏されたのも良かった。ここは年老いた大人の側からの人生への視点が伝わってくる場所で、第4幕のその後の展開にも深みを与えてくれるのだから。
このように優れた上演で「フィガロの結婚」を通して観ると、このオペラのあちこちに対立や利害関係や怒りや争いがありながらも、それらが混乱の果てフワッとほどけて、仲直りしたり和解したり許したりするエピソードの繰り返しになっていることがわかる。愛し合う者どうしに不信や疑いはつきものだったとしても、それは乗り越えられる。そんな「フィガロの結婚」の本質をしっかりと体験させてくれる最高の舞台だった。

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キャストはみな真摯な演技と歌で、それがまたこのオペラにふさわしいものだった。「フィガロの結婚」の一見ドタバタした喜劇は、決して小手先や余裕のお遊びなどではなく、懸命に生きている人たちの愛のドラマであるからだ。
特に印象に残ったのはアルマヴィーヴァ伯爵役の市川宥一郎。さすがに巧く、情熱的で短気で不安を抱えている伯爵の人間像が良く伝わってきた。誇り高い伯爵夫人役の木村有希、スザンナ役の山口はる絵の巧さ、フィガロ役の小野田佳祐の若々しさ、そのほかのキャストもみなキャラクターをしっかりと感じさせる充実した歌と演技だった。
コロナ禍をものともせず、これだけのレベルの舞台を作り上げた昭和音大のオペラの底力に改めて敬服させられた。

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大学公式Instagramでは、本公演のバックステージの様子を公開!オーケストラピットからみえる景色やアートマネジメントコース、舞台スタッフコースの学生たちが活躍する様子、合唱団として出演した声楽コースの学生たちの舞台裏の様子をぜひご覧ください!

Instagramはこちらから→

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<写真>撮影:三浦 興一

筆者紹介

林田 直樹 Naoki Hayashida

埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバーまで、近年では美術や文学なども含む、幅広い分野で取材・著述活動を行なう。

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