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ニュース
2023/01/29
お知らせ

【公演レビュー】昭和音楽大学吹奏楽団第36回定期演奏会

2022年12月4日(日)「昭和音楽大学吹奏楽団第36回定期演奏会」が昭和音楽大学テアトロ・ジーリオ・ショウワにて開催されました。

昭和音楽大学吹奏楽団第36回定期演奏会の画像

指揮

ユージーン.M.コーポロン、福本 信太郎、加藤 明久

プログラム

ジェイ・ケネディ/カタパルト <日本初演> 【指揮:ユージーン.M.コーポロン】
高 昌帥/イル カローレ ディ トレ リサイエ 【指揮:ユージーン.M.コーポロン】
ジョン・マッキー/大切な宝に人は涙する <日本初演> 【指揮:ユージーン.M.コーポロン】
ケヴィン・デイ/ウインドアンサンブルのための”協奏曲” <日本初演> 【指揮:ユージーン.M.コーポロン】
アルトゥロ・マルケス(オリヴァー・ニッケル編)/ダンソン 第2番 【指揮:加藤明久】
阿部勇一/交響詩”鯨と海” 【指揮:福本信太郎】
メイソン・ベイツ/ブートレガーズ・ブレイク ~禁酒法時代の栄光 <日本初演> 【指揮:福本信太郎】
ジュリー・ジルー/交響曲第6番”ブルー・マーブル” <日本初演> 【指揮:ユージーン.M.コーポロン】

公演レビュー

取材・文 林田 直樹
高い技術、よく鍛えられ統制されたアンサンブル。昭和音楽大学の吹奏楽にはいつも驚かされる。それだけではない。日本初演の作品がいつもたくさん盛り込まれ、グローバルな視点による吹奏楽の「現在」が感じられる。吹奏楽の名作ばかりでなく、新しい作品との出会いの体験があるから、足を運ぶのがいつも楽しみである。
今回の定期では、コロナ禍によりしばらく来日が途絶えていた全米吹奏楽界屈指の名指揮者ユージーン・コーポロン(1946年生まれ、今年77歳)が久しぶりに登場し、前半の4曲と後半のメインを指揮した。
そのタクトさばきは、「音の職人」といった風情である。威風たっぷりの巨躯でありながら、もったいぶったところがない。淡々として飾らず、確固とした信念を持ち、若い演奏者たちを立てることを忘れない、謙虚な人柄を感じさせる舞台姿であった。
名指揮者ユージーン・コーポロンの画像1
名指揮者ユージーン・コーポロンの画像2

前半は昭和の吹奏楽の技量の卓越を聴かせるヴィルトゥオーゾ的なプログラム。
ジェイ・ケネディ「カタバルト」(日本初演)は颯爽としてオープニングにふさわしく、高昌帥(コウ・チャンス)「イル・カローレ・ディ・トレ・リサイエ」はモダンな風味のハーモニーやフーガ風の箇所など変化に富んだ、スケール大きな聴きごたえある作品。ジョン・マッキ―「大切な宝に人は涙する」は2019年オハイオ州での銃乱射事件をきっかけに生み出され、ホースのような形状のものを振り回して風を切るような妙音を発するオーストラリアの民族楽器ワーリーを生かして不思議な空間の広がりを作り出す、瞑想的な作品。いずれも楽曲の充実を伝える完成度の高い演奏だった。

前半のメインを飾ったケヴィン・デイ「ウインドアンサンブルのための協奏曲」(日本初演)は、そのネーミングや、5楽章構成をとっているところからしても、クラシック音楽の名曲であるバルトーク「管弦楽のための協奏曲」をお手本にしたと思われるが、実際これはとても面白い曲だった。
中央後方に配置されたドラムスが全曲の鍵を握るこの作品には、変則リズムの妙味とビッグバンドジャズ風の楽しさがあったし、シンフォニックな安定感と力強さもあった。この曲のポテンシャルからすると、さらに自由なアドリブの個人主義や、無法者の危険なふてぶてしさが強調されてもいいのかもしれないが、随所にある精緻で技巧的なフレーズを、演奏者たちは色気のある音で魅力的に演奏し、楽曲の魅力を十分に堪能させた。

前半プログラムの様子1
前半プログラムの様子2

後半のコンセプトは、おそらく「より視覚的に」ということだろうか。
メキシコの作曲家アルトゥロ・マルケス「ダンソン第2番」(オリヴァー・ニッケル編)は、クラシック界ではヴェネズエラ出身の人気指揮者グスターボ・ドゥダメルがしばしば取り上げて有名になった曲である。このラテン系のノリと哀感は吹奏楽にもふさわしい。加藤明久の指揮は、頭のてっぺんからつま先まで踊るようで、この曲はこうあるべきという細かい指示に満ちており、それに若い奏者たちは見事に応えていた。
阿部勇一の交響詩「鯨と海」は、まるでドキュメンタリー映画のように海の中の鯨の生態を視覚的なイマジネーションによって伝える。巨体が身を翻し、波しぶきが飛び散るのが目に浮かぶような曲だ。上昇する半音階の動機は、フィンランドの作曲家ラウタヴァーラのような神秘性を感じさせる。福本信太郎の指揮は、自発性を引き出そうとする自然で確かなもの。
メイソン・ベイツの「ブートレガーズ・ブレイク 禁酒法時代の栄光」(日本初演)は、クラシックの現代作曲家としていま米国で大変話題のベイツの新作である。酒の密造者をテーマにしているだけあって、ハイウェイの車窓を流れる風景のようなスピード感、途中で鳴らされる警笛に象徴されるサスペンス感が面白い。スパイ映画のような視覚的音楽である。この曲も福本信太郎の安定した統率で、音の密度の濃い演奏が楽しめた。

後半プログラムの様子1
後半プログラムの様子2

最後を飾ったのは女性作曲家ジュリー・ジルーの「交響曲第6番“ブルー・マーブル”」(日本初演)。指揮は再びコーポロン。ブルー・マーブルとは地球のことで、地球と自然と人間との関係を問い直すコンセプトによる作品。背景には巨大なスクリーンに映像が映し出されるが、いまアメリカの音楽界ではジャンルを問わずこうした仕掛けはどんどん増えていて、それをこうしていち早く取り入れる姿勢は素晴らしい。ジャズ・トランペット奏者ルイ・アームストロングの代表作“この素晴らしき世界”の一節を掲げた宇宙的視点による地球の俯瞰である第1楽章、哲学者アリストテレスの言葉を掲げ、自然と生命の驚異を描いた第2楽章、作家ウェンデル・ベリーの警句を掲げ、自然の災厄や人間同士の争いや暴力を背景に、地球に暮らす者どうしの連帯を訴える第3楽章。いずれも映画音楽のように色彩感豊かな音楽を楽しめた。
こうしたメッセージ性の強い作品を体験して思ったのは、そもそも吹奏楽が目的なのではなく、吹奏楽を手段としてどう使うかという考え方の重要性である。クオリティの高い演奏さえしていればいいのではなく、いまの社会状況の中で何を伝えるのか、どんな世界観を共有してもらいたいのか。表現の核となる目的意識を、優れた作曲家たちは皆持っていると改めて感じさせられた。

交響曲第6番“ブルー・マーブル”演奏の様子

筆者紹介

林田 直樹 Naoki Hayashida

埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバーまで、近年では美術や文学なども含む、幅広い分野で取材・著述活動を行なう。

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