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ニュース
2023/09/08
お知らせ

【公演レビュー】フェスタサマーミューザKAWASAKI2023「昭和音楽大学」

2023年8月7日(月)『フェスタサマーミューザKAWASAKI2023「昭和音楽大学」』がミューザ川崎シンフォニーホールにて開催されました。

フェスタサマー2023_01

演奏

昭和音楽大学管弦楽団

テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ

プログラム

モーツァルト:交響曲第32番 ト長調 K. 318

フォーレ :ドリー組曲 Op. 56 (H. ラボーによる管弦楽編)

ラフマニノフ:交響的舞曲 Op. 45

公演レビュー

フェスタサマー2023_02

首都圏を中心に全国からプロ・オーケストラが集まる真夏のオーケストラの祭典「フェスタサマーミューザKAWASAKI」に参加した公演。オペラを中心に屈指の実力を示してきた時任康文(昭和音楽大学教授)の指揮で、昭和音楽大学管弦楽団とテアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラの合同編成。いつものテアトロ・ジーリオ・ショウワではなく、ミューザ川崎でどのように響くのかと期待して出かけた。

前半の1曲目、モーツァルト「交響曲第32番ト長調K.318」のフレッシュな開始からして驚いた。これはどのプロ・オーケストラにも全くひけを取らないクオリティだと感じた。硬いスティックを使ったティンパニとみずみずしい弦のアンサンブルは、古楽的で引き締まった響きが心地よい。

この曲は交響曲と名付けられてはいるが、多楽章制ではなく、3部構成のひと続きの楽曲である。オペラ・ブッファの序曲のように快活な雰囲気を持っており、ゆったりしたアリアの感じがあったり、短調の意外な展開があったり、内容的にも充実している。交響曲の成立史を考える上でも興味深い作品である。指揮の時任康文も、いつもの昭和音大がオペラを得意としていることをこのプログラミングでさりげなく示したのかもしれない。

フェスタサマー2023_03

2曲目のフォーレ「ドリー組曲op.56」(ラボ―による管弦楽編)は、18世紀のザルツブルクから、ベル・エポック期のパリに移ったことを示すように、響きの雰囲気がガラリと変わった。

シャキッとした歯切れの良さから、夢見るような暖色系の柔らかさへ。ほぼ同じ人数の編成だが、ハープなども加わり、こうも音楽の色彩感が変化するところに、オーケストラを聴く妙味があった。

何と言っても聴きものだったのは後半のメイン、ラフマニノフの「交響的舞曲op.45」。打って変わって大編成のフル・オーケストラによって、いまの昭和音大のオーケストラの実力が遺憾なく発揮され、ダイナミックで熱い演奏を堪能した。

1楽章は、冒頭の弦の刻みからして表情が緻密で、丁寧にリハーサルを重ねてきたことを感じさせた。素晴らしかったのは、トゥッティであってもオケの中のさまざまな音がバランスよく聴こえてきたこと。サクソフォンとイングリッシュ・ホルンの音色も甘くうっとりさせるものがあった。第1交響曲からの引用が楽章の終わりの方に出てくるが、あたかも若い頃の過去の傷をいつくしむかのような、ラフマニノフの大人の境地が伝わってきた。

2楽章は、いわば「滅びのワルツ」。第2次世界大戦中に書かれ、ラフマニノフの人生のみならずロマン派の終わりを象徴することになったこの曲において、この楽章は音楽史における最後のロマンティックなワルツなのである。

その開始は、金管群の不気味な荒涼とした和音によって導かれる。そして何度もワルツの背景として現れる。この金管群の表情変化が緻密に練り込まれていたのは非常に良かった。ヴィオラの不気味さも効いていた。

3楽章は、非人間的な機械文明に立ち向かう、人間性と美と愛の側の戦いである。戦いの音楽であっても、そこにタンバリンやシロフォンのような軽やかな響きを伴うのは、華やかに装うことへのラフマニノフの矜持があるからだ。

死の鐘が鳴り響くこの変幻自在で激しい音楽を、オーケストラは類まれな集中力と緊密なアンサンブルによって芸術的な次元へと昇華していた。

アンコールはラフマニノフの「ヴォカリーズ」管弦楽版。コンサートマスターとクラリネットのソロはしみじみとした表情が心に染みた。演奏が終わった後の聴衆の静寂も音楽の一部となっていた。

オーケストラの技量はもちろんのこと、今回のコンサートを成功に導いた時任康文の指揮は、楽曲に対する誠実さと献身を感じさせて印象的だった。ミューザ川崎を訪れた多くの聴衆も、昭和音大の音楽的レベルの高さを強く印象付けられたに違いない。

フェスタサマー2023_02

写真提供

ミューザ川崎シンフォニーホール

筆者紹介

林田 直樹 Naoki Hayashida

埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバーまで、近年では美術や文学なども含む、幅広い分野で取材・著述活動を行なう。

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