音楽・バレエ教室
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ニュース
2024/01/30
お知らせ

【公演レビュー】昭和音楽大学吹奏楽団 第37回定期演奏会

2023年12月3日(日)昭和音楽大学吹奏楽団 第37回定期演奏会がテアトロ・ジーリオ・ショウワにて行われました。

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指揮

時任 康文

演奏

昭和音楽大学吹奏楽団

プログラム

L.バーンスタイン(Arr. C.グランドマン) キャンディ-ド序曲

E.ウィテカー オクトーバー

R.スィチー バグズ

J.オッフェンバック(Arr. 小長谷宗一) バレエ音楽「パリの喜び」より

G.ヴェルディ(Arr. 鈴木英史) 歌劇「マクベス」より”バレエ音楽”

H.ハンソン ディエス ナタリス

公演レビュー

ある先生からこのように言われた。

「今日の演奏メンバーは、コロナ禍になってから入学した学生たちばかりなんです」。

ハッとした。そうだったのか

最も感染対策が厳しかったあの頃――。ビニールシートで一人一人の学生が仕切られた状態の中で、何とか練習を続けている苦しい状況があった。いつ終わるともわからない不安な日々のなかで、学生たちも先生方も、どれほど悩みながら必死に演奏を磨いてきたことだろう。

アンサンブルにとって、お互いの音や気配を感じることは命といってもいい。それをソーシャル・ディスタンスという対策のために制限されながら、何とか成長してきたのが、今日の彼らの姿なのだ。

 

前半の1曲目、レナード・バーンスタイン(1918-90)の「キャンディード」序曲(グラントマン編)は、当たり前のように受け止めてしまいがちな定番曲だが、それをこうして普通に演奏できる状況にあることが、本当にありがたいと改めて思えてくる。ジャンルを超えた音楽家、生粋の平和主義者、そして偉大な教育者として大きな影響をいまにも及ぼしているバーンスタインの作品は、誰もが立ち返るべき原点でもある。

2曲目のエリック・ウィテカー(1970-)の「オクトーバー」は、10月を意味するタイトルの通り、雄大な自然の静寂を思わせるようなしみじみとした曲で、バーンスタインのノリの良さとのコントラストが際立つ。やや引き締まった編成で、緻密に書かれた細やかな音が風景画のような世界を浮かび上がらせた。オーボエの美しい旋律が耳に残る。合唱音楽で世界的に注目されているウィテカーの作品をこうしてライブで聴けるのは有難かった。

3曲目はアメリカの作曲家ロジャー・スィチー(1956-)の「バグズ」は虫をテーマにした組曲で、前奏曲/トンボ/祈りを捧げるカマキリ/クロゴケグモ/トラフアゲハ/軍隊アリ、の6楽章からなる。虫たちの生態をユーモラスに表情豊かに描くこのような作品は、誰にとっても親しみやすい。パーカッションの精密さ、抒情的な歌、ゆったりとした優雅さ、残酷な軍隊アリの大群の行進など、まるでアニメーション映画の音楽を聴いているようで楽しかった。

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休憩をはさんで後半の1曲目はフランスのオペレッタの作曲家ジャック・オッフェンバック(1819-80)のバレエ音楽「パリの喜び」(小長谷宗一編)、そして2曲目はイタリアのオペラ作曲家ジュゼッペ・ヴェルディ(1813-1901)の「マクベス」からバレエ音楽。

幸福感に沸き返る遊園地のようなオッフェンバックの華やかさと、魔女や悪魔たちのおどろおどろしいヴェルディの力強い世界と、見事なコントラスト。天国から地獄へとジェットコースターで駆け降りるように、両極端の音楽をシンフォニックな迫力と勢いのある演奏で楽しませてくれた。昭和音大の得意とするオペラの響きが、こうした形で吹奏楽でも響いてくるのも、良い趣向である。

最後はアメリカの作曲家・指揮者ハワード・ハンソン(1896-1981)の「ディエス・ナタリス」。クリスマスにちなんだ壮大な音楽である。9人並んだトロンボーンをはじめ、ユーフォニアムやテューバやトランペットら金管群の迫力は吹奏楽ならでは。木管のしみじみとしたハーモニーも美しく、じわじわと盛り上がる歩みは、昭和音大の吹奏楽の確かな発展そのもののように感じられた。

アンコールは、クリスマス気分を盛り上げるルロイ・アンダーソン「そりすべり」、ハチャメチャ感が楽しいプロコフィエフ「マーチop.99」、静かな余韻が印象に残るマスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲。

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時任康文の指揮はいつもながら信頼感抜群で、決して振り過ぎることなく、任せるときは奏者の自主性にできるだけ任せる手腕も見事だった。日頃の指導教員陣の充実ぶりも、おそらくこの日の演奏に反映していたことだろう。

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撮影

増田 雄介

筆者紹介

林田 直樹 Naoki Hayashida

埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバーまで、近年では美術や文学なども含む、幅広い分野で取材・著述活動を行なう。

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