2023年12月24日(日)ミュージカルコース・舞台スタッフコース卒業公演「リーガリー・ブロンド」がテアトロ・ジーリオ・ショウワにて行われました。
【公演レビュー】ミュージカルコース・舞台スタッフコース2023年度卒業公演「リーガリー・ブロンド」

出演
音楽芸術運営学科ミュージカルコース4年生
スタッフ
音楽芸術運営学科舞台スタッフコース4,3,2年生
演出 横山 由和(客員教授)
音楽監督 丸山 和範(講師)
歌唱指導 萩原 かおり(教授)
振付 酒井 麻也子(講師)
振付・タップ指導 祝利 美杏(准教授)
音楽監督補佐 案野 弘子(講師)
翻訳 香西 史子(教授)
公演レビュー
【12:00開演(ポジティブ)所見】
クリスマス・イブに素敵な舞台を観た。
ミュージカル「リーガリー・ブロンド」はUCLAの女子大生で金髪のチャーミングな女性エルが、恋をきっかけにハーヴァード法科大学院に入学し、学びや苦難をきっかけに成長していくという青春物語。「キューティー・ブロンド」の通称で知られるこのミュージカルは、同名の映画が原作となっている。
音楽とダンスはとにかくバラエティ豊かで、70年代風ディスコサウンドもあれば、ストリートダンス、バトントワーリング、タップダンス、アイリッシュダンスも出てくるし、ここ半世紀のポップス歴史がぎっしり詰まっているかのよう。観ている方はなつかしさもあいまってとても楽しい。演じている学生たちにとっては、楽しさだけでなく、多様な音楽やダンスのスタイルを身に付けるという意味でも、これ以上ない勉強にもなったことだろう。重唱やコーラスの場面では、必ず美しい対旋律があることで、歌に奥行きが出てくることも、作曲・作詞のローレンス・オキーフ&ネル・ベンジャミンの美点である。
これらの音楽のベースには英語のダイナミックなリズム感がある。日本語訳詞での上演だったが、サビの部分はシンプルな英語が生かされていた。




冒頭のナンバーで何度も繰り返される「Oh, My God」という言葉は、音楽の楽しさもあいまって「やばい」「すごい」とつい感覚的に訳したくなるが、果たしてそれだけだろうか。エルとワーナーという二人の恋人同士が永遠の愛と神聖な絆でめでたく結ばれるかどうか?というシーンで歌われていたことを考えると、祝福する「God」(=神)というニュアンスが本当にこの場面では込められていたのかもしれない。
「What You Want」というフレーズも耳に残っている。ディスコサウンドにぴったり合うこの英語は、「あなたが欲しいもの」と直訳されるが、それが激しく繰り返されることによって、不思議な迫力を帯び、意味が多重性をともなってくる。彼氏をゲットしたいというシンプルな動機だけではない、あなたは本当はいったい何をしたいのか?あらゆる人にとっての強い問いかけのような歌にもなってくる。
ミュージカルの素晴らしいところは、オペラや演劇とは違い、舞台から客席に向かってより直接的に語りかけ、ぐいぐいと前に出て挑発する点にある。パフォーマーたちの生き方や人間性そのものが役柄と重なって、ダイレクトに、「いま、ここにいる自分」をプレゼンテーションしている感じがある。それがミュージカルの強いところではないだろうか。




舞台はアメリカの話であっても、勉強や恋愛に賭けること、インターンシップやバイトで直面する社会の荒波やセクハラや差別、そして友人たちとの連帯。大人への成長を確認する儀式としての、最後の卒業シーン。昭和音大の学生たちにとっても全く同じ自分自身の問題たりうることだろう。痛快なハッピーエンドとともにこの物語が観客に伝えてくれるのは、困難に負けず勇気と知恵を巡らせること、自分に正直に真実を求めることの大切さである。
幕が開いて最初の方はやや緊張が感じられたが、どんどん雰囲気がこなれていき、主役の鈴木楓加(エル)を中心に、中澤知優(エメット)、沼田来蕗(ワーナー)、三好香菜(美容師ポーレット)、藤江花(ライバルのヴィヴィアン)、松永実怜(ブルック)、西倉優奈(上司キャラハン)らそれぞれが個性を生かしつつ、全員チームワークで乗り切るあたりが昭和音大らしい。

舞台スタッフコースの学生たちの質の高い仕事ぶり、丸山和範指揮、案野弘子(ピアノ、バンドマスター)らによる安定した演奏も舞台をしっかりと支えた。最後はクリスマス・イブにふさわしい盛り上がりを見せる素晴らしい舞台を楽しんだ。








筆者紹介
林田 直樹 Naoki Hayashida
埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバーまで、近年では美術や文学なども含む、幅広い分野で取材・著述活動を行なう。