2025年5月31日(土)昭和音楽大学吹奏楽団 昭和ウインド・シンフォニー第26回定期演奏会がテアトロ・ジーリオ・ショウワにて開催されました。
【公演レビュー】昭和ウインド・シンフォニー第26回定期演奏会

指揮
ユージーン M コーポロン
福本 信太郎
演奏
昭和ウインド・シンフォニー
プログラム
1.フランク・ティケリ/ ファンタスティック・ドリームズ
2.ジェリー・ジル/交響曲第7番 ”タイタン“
3.真島俊夫/Mont Fuji(富士山)~北斎の版画に触発されて~
4.J.S.バッハ(Arr.田村文生)/チャッコーナ・アラルガータ~パルティータ第2番 BWV1004より
5.ロバート・スパタール/吹奏楽のための協奏曲
指揮:1,2,5ユージーン M コーポロン 3,4福本信太郎
公演レビュー
昭和音大の吹奏楽のコンサートに行くたびに感じるのは、その演奏クオリティの高さのみならず、新しい魅力的な楽曲が次々と生み出されていく、吹奏楽界の活力である。
前半は、2000年より昭和音大の招聘で来日を続けているアメリカ吹奏楽界の大家ユージーン・コーポロンの指揮で、フランク・ティケリ(1958-)「ファンタスティック・ドリームズ」、ジェリー・ジル―(1961-)「交響曲第7番《タイタン》」(どちらも日本初演)。
前者は第3楽章「空飛ぶじゅうたん」の浮遊感、第4楽章「ノワール」の打楽器群のリズムの良さが印象的。後者は土星の衛星をタイトルとする全6楽章で、宇宙科学の視点を盛り込み、映像的なイメージを喚起する楽しい作品。
後半は、福本信太郎・昭和音大教授の指揮で、真島俊夫(1948-2016)「Mont Fuji(富士山)~北斎の版画に触発されて~」と、J.S.バッハ原曲/田村文生編曲「チャッコーナ・アラルガータ~パルティータ第2番BWV1004より」。前者は江戸情緒あふれる和太鼓の入った色彩的な響きが効果的で、後者は奇想天外なアレンジの連続で、断崖のような意外感のエンディングも面白かった。最後は再びコーポロンの指揮で、ロバート・スパタール(1963-)「吹奏楽のための協奏曲」(日本初演)はとりわけ第3楽章「プレリュードとアメリカン・ヴァリエーション」の音楽的表情の多彩な楽しさが印象に残った。
アンコールはジョン・マッキー「フィション」とラリー・タトル「ダイナモ」の2曲とも日本初演。全部で日本初演が5曲というのは、いつもの昭和音大らしさなのだが、通常のオーケストラでは考えられないことで、吹奏楽作曲界の旺盛な活力が伝わる趣向だった。
コンサートを通して感じたのは、昭和音大の吹奏楽の個人の技量もさることながら、「全体でひとつの音楽」を作ろうとするアンサンブルのまとまりの良さである。
コーポロンの鷹揚で貫禄ある指揮もさることながら、安定感と誠実さにあふれた福本教授の指揮は、日頃の指導力の高さをうかがわせるもので、国内外の吹奏楽の現在を伝えようとする姿勢にはいつも敬服させられる。
3月2日にテアトロ・ジ―リオ・ショウワでおこなわれた「陸上自衛隊中央音楽隊&昭和ウインド・シンフォニー キャンパス・コンサート」のことも少し振り返っておきたい。
陸上自衛隊中央音楽隊(柴田昌宜指揮)は、規律正しさが音楽に結びついているところが見事だったが、その中に所属する昭和音大の卒業生4名が紹介されたのは、うれしい瞬間であった。
この日の昭和ウインド・シンフォニーも福本信太郎教授の指揮によるものだったが、演奏曲目は「真島俊夫特集」となっていて、この作曲家がいかに従来の吹奏楽の可能性を越えた、新たな芸術性を志向していたかを実感させた。
昭和ウインド・シンフォニーの演奏は、調和のとれたアンサンブルに特徴があるのみならず、オーボエやサックス、ユーフォニアム、トランペット、フルートなどのソロも心に訴えるものがあった。合同演奏での華やかさも強く印象に残っている。
いつも昭和ウインド・シンフォニーの演奏には、吹奏楽の魅力について教えられることばかりで、毎回楽しみである。




撮影
池上 直哉
筆者紹介
林田 直樹 Naoki Hayashida
埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバーまで、近年では美術や文学なども含む、幅広い分野で取材・著述活動を行なう。